KIOSKの記憶
定期的に電車に乗るようになったのは、
小学6年生にあがる春休みからだった。
最寄りも行き先もJRの駅だったので、
駅の売店といえばキオスクだった。
コンビニに寄ることもあったが、
スーツ姿の男性や女性が後ろでレジ待ちをしていると
なんとなく申し訳ない気持ちになって、
財布も小銭も扱い慣れていないわたしは
落ち着かないことがあった。
サッとできなくてごめんなさい。
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わたしがよく立ち寄ったキオスクは、
(たぶんだけど)
ラッシュ時を除けばのんびりとした店舗で、
五円玉や一円玉をがちゃがちゃ探していても
後ろに人が並ぶことが少なかった。
おまけにレジのおばさんは、
「あら、ぴったり出してくれたの」
なんて言ってくれるものだから、
嬉しくなっちゃって。
飲み物はそこで買うことが増えていった。
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就職して、私鉄沿線に数年ばかり住み、
先日また、
キオスクのある駅が最寄りになった。
いまはほとんど小銭を使わずSuicaで払うし、
セルフレジだってあるから、
ほかに買う人が居てもそわそわしなくなった。
おばさんは、当然のことながら
6年生の時のあの人ではない。
(駅が違うんだしそりゃそうだ)
それでもなんとなく、
ホームの自販機よりキオスクで買うことが多い。
単に好きな飲み物が自販機にない
という理由もあるけれど。
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いまのキオスクのおばさんは、
少しだけかったるそうに見えることもある。
でも、毎日お茶を買っていると
割とすぐに顔なじみになってくるものだ。
かったるそうにしながらも、
見かけによらずけっこう大きな声で
「まいど〜」とか「ありがとうございました〜」
と言ってくれるおばさんのことを、
なんだかいいな、と思っていた。
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そんなある日。
真っ昼間なのに、
キオスクのシャッターが閉まっていた。
緊急事態宣言。
近くの駅のNewDaysは営業していたので、
てっきりこのキオスクも
開いているものと思っていた。
貼り紙には臨時休業とあって、
期間も「しばらくの間」となっていた。
いつ開くのかはハッキリしない。
臨時休業の前、
最後にここでお茶を買ったとき、
ほかにお客さんがいたので
わたしはセルフレジで会計をした。
おばさんに合図はしなかった。
約1ヶ月半、おばさんの姿を見ていない。
緊急事態宣言は、
明日、首都圏も解除されるのだろうか。
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ソーシャルディスタンシングと言われているけれども、
あのキオスクが開いたら、
できればおばさんのレジにお茶を持って行きたい。
おばさんは元気にしているだろうか。
少しくらいかったるそうでもいい。
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ちなみに、毎日買っていたお茶とは。
お茶よりさらっと飲めるお茶。
濃いお茶も好きだけど、あえて薄いところがいい。
わたしは好き。